「HHH(スリーエイチ)の会」の第3回目の会合として、2016年7月29日に神戸大学にてワークショップを開催しました。
HHHの会は、共通の健康増進活動(健康100日プロジェクト)を参画企業各社の従業員に提供し、その取組み前後で、働く意識や取り組み姿勢にどのような変化があったかを調査することで、健康経営の意義を検証しようという取組みですが、このたび、当プロジェクトに各社総計979名の従業員の皆さんに参加いただくこととなりました。
当回会合は、まさに各社にてプロジェクトを開始したばかりのタイミングで実施する運びとなりました。各社がプロジェクトを社内に導入するにあたって直面した課題や工夫した点などを共有するとともに、後半では、既に健康経営の実践企業として大きな成果をあげていらっしゃる株式会社フジクラの人事部 健康経営推進室 副室長の浅野健一郎様にご講演いただきました。
ワークショップ 「健康経営の社内展開の課題と対策」
当会副座長である武蔵大学 経済学部 准教授の森永雄太氏のファシリテートにより、「健康経営の社内展開の課題と対策」というテーマでワークショップがスタートしました。
今回、健康100日プロジェクト(健康経営施策)を社内で展開していくにあたり、直面した課題や、それを乗り越えるための工夫をグループ単位で共有しました。
各グループから出された課題(悩んだ点)として、以下のような点があげられました。
・ 誰を対象者とするのか?(指名して参加させる?希望者を募集?)
・ 業務として取り組ませるのか?
・ 取組みの意義や目的を理解させるのに苦労した
・ 活動を継続させることに難しさを感じた
・ チーム(組織)によって取組み姿勢に差があった
また、導入にあたって工夫した点として、以下のような点があげられました。
・ 役員や保健師、対抗勢力などを巻き込むことによって、組織的な取組みにする
・ 各チームに、活動に対してポジティブな人を配置する
・ チームでの連帯責任や共通目標化によって士気を高める
・ 組織内での位置づけを明確にして、目的を共有化する
・ うまく自走したチームをモデルにして、他チームにも活動を促す
これを受けて、森永氏より、従業員に健康活動に参加を促す影響要因として2つの指摘があることが紹介されました。一つは、会社が従業員の健康にコミットしていることが従業員に伝わっていること(役員が率先して行う、経営トップが社内外に発信するなど会社の本気度を示す)。もう一つは、従業員個人が、自身の健康のために生活習慣や行動習慣を変えないといけないと認知する、ということ。
また、純粋に“健康のために”ということに注力しがちだが、最初から健康にモチベ―トされる人ばかりではないので、ゲーム的な要素やイベント的に取り組ませることによって、やる気が高まるという要素も利用しながら進めていくのが大事ではないかとの投げかけがありました。
座長である神戸大学経営学研究科 教授の金井壽宏氏からも、活動を継続させていくためには、ゲーミフィケーションや競争意識を利用しながら、いわゆる“根性なし”の人もできるようにすること、職場ぐるみで一人だったらできないようなことが、お互いケアし合って実現することによって、職場の雰囲気まで良くなる効果があるのではないかとの見解が示されました。
また、経営学のなかで検証されてきた「組織の中の人間行動」の1つに、良かれと思って正しい方向で何かを変えようと思っても、必ず抵抗勢力が出てくるが、決定のプロセスに参加させることによって受容されやすくなるものだ、という指摘もありました。
健康経営の実践例 講演「フジクラグループの健康経営~社員が活き活きと働いている会社を目指して」
後半は、株式会社フジクラの浅野様より、健康経営の実践例として、2009年から試行錯誤を続けながら成果をあげてこられた自社の取組みを、豊富な資料を交えながら率直にご紹介いただきました。
(以下、ご講演内容および質疑応答からポイントを抜粋。)
少子高齢化をはじめとした社会環境要因と、ビジネススタイルの変化等を背景に、作業能力向上のための投資よりも健康維持のための投資のほうが、企業として投資効率が良くなってきた。
自社の経営課題の解決のために健康という手段を取るのだ、という目的を明確にすることが重要。
経営層の壁、組織の壁、法律の壁、無関心の壁、疑心暗鬼の壁、を一つ一つ丁寧に乗り越えながら、賛同者、参加者を少しずつ増やしていくことで、全社的な取組みに育ててきた。
事前のアンケートで、従業員の多くが、会社が健康に関与することに対してポジティブな意見を持っていることを確認しておき、反対者の声に振り回されずに着実に賛同者を増やしてきた。
自分に健康が必要だという認知をいかに持たせるか?という点においては、個別のアプローチと健康教育も重要。
経営陣、関係部門、現場のメンバーを巻き込むためには、意思決定プロセスに巻き込む推進体制を作り、そのサイクルを回していく運営が重要。
心と体に関する詳細な健康関連データはもちろんのこと、勤怠も含めた生産性に係る指標などもすべてデータとして取得。健康状況にあわせて個別のアプローチ、事業所ごとの分析などに役立てながら、成果を目指している。
様々なデータを計測しやすい環境、雲梯や散歩できるスペースなど活動量を増やせるような環境、自転車通勤のための自転車貸与、ウォークイベントの定期開催など、会社として様々な環境を提供している。
疾病予防ではなく、健康経営の目的である「活き活きと従業員が働ける会社を目指す」という観点で施策を実施している。一番重要なのは、チームの中での信頼関係だということがわかってきた。
健康というのは、今日やったから明日成果が出るというものではないので、3年単位で予算化・事業化して成果を判断している。
自発的な健康習慣化を目的にしているので、評価に連動させたり強制参加はさせていない。強制させることは「やらされ感」を生み、ネガティブな結果になる。
2009年からの実践の軌跡と、その中で培われた健康経営推進担当者ならではのノウハウを惜しみなくご提供いただき、当会の活動においても、大きな勇気と多くのヒントをいただいたご講演でした。
会合終了後には、浅野様を囲んで希望者による懇親会を実施し、活発な意見交換が行われました。次回の成果共有の会合まで、各社ごとの取組みが続きます。